2021 年 40 巻 4 号 p. 382-391
目的 : 本研究の目的は, 脛骨インプラントの適合性 (オーバーハングの発生) と骨切り面被覆率から人工膝関節置換術 (TKA) の回旋指標であるAkagi’s line (A line) と膝蓋腱付着部内縁から内側1/3線 (1/3 line) を比較検討することである。
方法 : 内反型変形性膝関節症7例の下肢CTデータをTKA術前計画ソフトウェアにより解析した。TKA 3DモデルにはInitia (内外側対称) およびJourney Ⅱ (内外側非対称) を用いた。上記の回旋指標を用いて脛骨を正面化し, 外側平原軟骨下骨から9mm遠位で機能軸に垂直に骨切りし, 次いで, 外側顆部骨切り面の前後幅を超えない最大サイズのモデルを選択し, 内外側幅の中央にインプラントを設置した。なお, Gerdy結節骨切り面にはインプラントを乗せないようにした。この段階でオーバーハングを認めた場合には適合不良と判定し, サイズダウンした。次いでインプラントによる骨切り面被覆率を計算した。また, 術中にオーバーハングを回避する場合, どの方向に回旋位を調整するかを想定するため, 最終的な設置から6度内外旋させた場合の適合不良の発生についても検討した。
結果 : 1/3 lineはA lineに対して平均9.0±1.1度外旋していた。A lineを指標とした場合のInitiaおよびJourney Ⅱの適合不良の例数 (7例中のオーバーハング例数) と平均被覆率は, それぞれ0例と78.9%, および, 0例と80.1%であった。1/3 lineを指標とした場合のInitiaおよびJourney Ⅱの適合不良の例数と被覆率は, それぞれ3例と76.4%, および, 5例と72.6%であった。6度内旋による適合不良の例数 (14例中のオーバーハング例数) は, A lineと1/3 lineで, それぞれ6例 (43%) と2例 (14%), 6度外旋による適合不良の例数は, それぞれ9例 (64%) と12例 (86%) であった。A lineを指標としてInitiaを用いた場合の6度内旋では, 適合不良の例数は2例 (29%) と少なかった。
考察と結論 : いずれの機種においてもA lineを用いる方が良好な適合性と被覆率を示し, 回旋位決定の指標として有利であると考えられた。また, 1/3 lineを回旋指標にした場合, 追加の内外旋によりオーバーハング発生率に大きな差があるため, 術者は1/3 lineよりやや内旋位で設置する傾向があると思われる。A lineを回旋指標として対称性インプラントを用いる場合には, 過内旋エラーをオーバーハングにより察知しにくいことに注意が必要である。