2021 年 37 巻 4 号 p. 291-302
日常会話における聴覚的理解は比較的良好であるにもかかわらず,多肢選択の単語指示課題において顕著な成績低下を示した超皮質性失語の1例を報告した.症例は67歳,右利きの男性.頭部MRIおよびSPECTにて左前頭葉を中心とする病巣を認めた.本例は,単語指示課題において,目標語の聴覚呈示後に選択肢図版を「後出し」する条件で成績が向上した.さらに,目標語が呈示される前に,目標語と意味的に近似した単語を見聞きする条件で成績低下が認められた.以上より,本例の単語指示課題における障害の本質は,目標語と意味的に近似する複数の意味情報の中から適切な目標語を「選択できないこと」である可能性が示唆された.