軽度認知障害を有する高齢者におけるdual-task歩行能力と前頭前野内の灰白質
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- 土井 剛彦
- 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 自立支援開発研究部 自立支援システム開発室
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- 牧迫 飛雄馬
- 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 自立支援開発研究部 自立支援システム開発室 日本学術振興会
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- 島田 裕之
- 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 自立支援開発研究部 自立支援システム開発室
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- 堤本 広大
- 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 自立支援開発研究部 自立支援システム開発室
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- 上村 一貴
- 日本学術振興会 名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻 理学療法学分野
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- 朴 眩泰
- 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 生活機能賦活研究部 運動機能賦活研究室
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- 李 相侖
- 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 生活機能賦活研究部 運動機能賦活研究室
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- 吉田 大輔
- 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 自立支援開発研究部 自立支援システム開発室
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- 阿南 祐也
- 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 自立支援開発研究部 自立支援システム開発室
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- 伊藤 忠
- 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 自立支援開発研究部 自立支援システム開発室
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- 鈴木 隆雄
- 国立長寿医療研究センター 研究所
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抄録
【はじめに、目的】軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)はアルツハイマー病の臨床的前駆症状の一つと捉えられている。MCI高齢者において、認知機能低下だけでなく身体機能低下も認知症発症リスクの一因とされており、とくに歩行能力の低下が認知症発症リスクを上昇させると報告されている。近年では、高齢者の歩行能力は前頭前野の灰白質容量の減少と関連することが報告されており、脳機能と歩行との関連を明確にすることは、理学療法研究においても重要な情報を提供できるものと考える。また、MCI高齢者ではdual-task歩行能力が低下するとされており、dual-task歩行能力は前頭前皮質を中心に役割を有する遂行機能と関連するものと考えられている。これらのdual-task歩行能力と認知機能との関係に関する知見については、観察・実験研究を中心に散見されるものの、それらの関係性を裏付ける脳賦活状態や脳容量の影響などといった神経生理学的な知見は十分に得られていない。そこで、本研究はMCI高齢者におけるdual-task歩行能力が前頭前野における灰白質容量と関係性を有しているかを検討することを目的とする。【方法】2011年8月~2012年2月に実施されたObu Study of Health Promotion for the Elderly (OSHPE) に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名のうち、多面的認知機能評価の結果からPetersonの基準に則りMCIに該当し、一般特性、歩行計測ならびに頭部MRI撮像を行い、すべてのデータが得られた373名(平均年齢71.5歳、女性196名) を本研究の対象とした。歩行計測は、通常歩行とdual-task歩行 (歩きながら数字の逆唱を行う) の2条件にて各々1試行とし、11m歩行路の中央5mにおける歩行速度を測定した。MRIは3.0T (TIM Trio, Siemens, Germany)にて撮影し、Voxel-based morphometry 8 (VBM8)を用いた解析を行った。また、pick atlasを用いて前頭前野を関心領域に設定した。歩行条件による歩行速度の比較には、paired-t-testを用いた。VBM8を用いた解析では、各々の歩行指標を目的変数とした重回帰モデルを作成し、調整変数として年齢、性別、教育歴、Mini-Mental State Examinationの点数を設定した上で、各条件での歩行速度と灰白質容量との関係性を検討した。統計学的有意水準はp < 0.05に設定した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は独立行政法人国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認後に実施し、事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し、対象者から同意を得た。【結果】通常歩行とdual-task歩行における歩行速度はそれぞれ1.36 ± 0.22m/s、1.24 ± 0.32m/sであり、dual-task歩行での歩行速度が有意に遅かった (p < 0.001)。通常歩行速度と関連が認められた灰白質の部位は、右中前頭回から下前頭回にかけて背外側前頭前皮質 (Brodmann area: BA46)、三角部 (BA45) を中心とした領域であった (threshold of p < 0.001 uncorrected)。一方、dual-task歩行における歩行速度と関連したのは、下前頭回における右三角部 (BA45) を中心に、左眼窩前頭前皮質 (BA11)、さらに両側の背側前帯状皮質 (BA32) であった (threshold of p < 0.001 uncorrected)。また、両条件の歩行速度と共通して関連が認められた下前頭前野領域については、dual-task歩行と関連している領域の方が通常歩行に比べ容量が大きかった。【考察】MCI高齢者における歩行速度と前頭前野の灰白質容量との関連を調べた結果、通常歩行速度と関連していた領域は、右中前頭回から下前頭回にかけての灰白質領域であった。通常歩行速度と脳の灰白質容量や皮質厚との関係を検討した研究では、歩行速度と前頭前野の関連性が示唆されており、本研究ではそれらを支持、拡大する結果が得られた。一方、dual-task歩行速度と関連していたのは、両側の下前頭回における前頭前皮質だけでなく、前帯状部も含む灰白質領域であった。前帯状部は前頭前皮質と密に相互連結し、パフォーマンス自体を監視し、遂行機能と前頭前皮質に対して介在的関係にあるとされている。このように、前頭前野における複数の領域においてdual-task歩行と灰白質との関連性が示されたことにより、これまでに観察・実験研究によって推察されてきたdual-task歩行能力が遂行機能と関係しているという説を強く支持すると考えられる。今後、他の歩行指標における検討を続けることで、認知機能障害を有する高齢者における歩行能力低下の要因を理解する一助となると考えられる。【理学療法学研究としての意義】歩行能力が低下した高齢者を対象とし、その能力を改善させることは、理学療法の大きな目標の一つとなる。本研究はdual-task歩行能力に前頭前野が関わっていることを示し、dual-task歩行のもつ臨床的意義を明らかにするためのエビデンスの一つになると考えられる。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100558-48100558, 2013
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報
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- CRID
- 1390282680549513088
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- NII論文ID
- 130004585043
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可