日本語版―改訂Gait Efficacy Scaleの信頼性および妥当性
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- 牧迫 飛雄馬
- 国立長寿医療研究センター 日本学術振興会
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- 島田 裕之
- 国立長寿医療研究センター
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- 吉田 大輔
- 国立長寿医療研究センター
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- 阿南 祐也
- 国立長寿医療研究センター
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- 伊藤 忠
- 国立長寿医療研究センター
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- 土井 剛彦
- 国立長寿医療研究センター
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- 堤本 広大
- 国立長寿医療研究センター
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- 上村 一貴
- 日本学術振興会 名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻理学療法学分野
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- Brach Jennifer
- Department of Physical Therapy, University of Pittsburgh
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- 朴 眩泰
- 国立長寿医療研究センター
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- 李 相侖
- 国立長寿医療研究センター
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- 鈴木 隆雄
- 国立長寿医療研究センター
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抄録
【はじめに、目的】歩行動作を安全に行うことができるか否かに対する個々人が感じている自信の程度は、転倒に対する恐怖感と相互に関連して活動量を低下させる一因となり得る。この歩行の自信の程度を歩行に特化した自己効力感として把握するためにGait Efficacy Scale(GES)が作成され、日常の生活環境に適した質問項目になるように修正が加えられた改訂版(modified)GES(mGES)が報告されている。本研究では、わが国においてもmGESの活用が可能となるように日本語版mGESを作成し、信頼性と妥当性を検証することを目的とした。日本語版mGESの信頼性と妥当性を確認することによって、従来の歩行速度や歩幅、歩行率などの移動動作としてのパフォーマンス評価に加えて、歩行評価のひとつとしての有用性を示すことが本研究の意義となる。【方法】要介護認定を受けておらず、本研究の運動機能測定を完遂できた65歳以上の地域在住高齢者240名(平均年齢73.5歳、女性104名)を対象とした。脳卒中、パーキンソン病、うつ病を有する者、ペースメーカー使用者、重度の視聴覚障害者、認知機能の低下が疑われた者は除外した。そのうちの31名(平均年齢72.6歳、女性11名)については、自記式による日本語版mGESの評価を2回実施した(評価間隔14~20日間)。日本語版mGESの作成にあたっては原著者から翻訳許可を得た後に、10年以上の翻訳歴を有する医学専門の日本人翻訳者2名が翻訳作業を担当した。1名の翻訳者が原版のmGESを英語から日本語へ順翻訳した後に、高齢者が自記式で回答しやすいように日本人研究者2名(研究歴10年以上)により若干の修正が加えられた。その後、順翻訳をした者とは別の翻訳者が日本語から英語への逆翻訳を行い、その内容と原版に概念的な相違がないことを原著者が確認した。これらの作業を経て、原版と同様に10項目の質問で構成され、各項目を1~10点のリカートスケールで回答する日本語版mGES(得点範囲:10~100点)を作成した。日本語版mGESの妥当性を検証するために、相関分析を用いて日本語版mGESと運動機能(chair-stand test:CST、片脚立位時間、通常歩行速度、6分間歩行距離)、生活空間(life-space assessment: LSA)との関連を調べた。また、転倒恐怖感と各変数との関連について、転倒恐怖感の有無を従属変数、各運動機能、LSA、日本語版mGESを独立変数とした尤度比変数減少法(ステップワイズ法)によるロジスティック回帰分析を行った。危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され、著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し、同意を得た。【結果】日本語版mGES の2回繰り返し測定による級内相関係数(2、1)は0.95(95%信頼区間0.89―0.97、p<0.01)であり、非常に高い再検査信頼性が確認された。日本語版mGES得点はCST(r=-0.34)と有意な負の相関関係を示し、片脚立位時間(r=0.28)、通常歩行速度(r=0.40)、6分間歩行距離(r=0.46)とは有意な正の相関関係を認め(すべてp<0.01)、良好な運動機能との関連を示した。また、日本語版mGES得点はLSA(r=0.21)と有意な正の相関を示し、生活空間との関連も認められた。ロジスティック回帰分析の結果、転倒恐怖感と関連する要因として抽出された項目は、性別(女性)、通常歩行速度、日本語版mGESであり、それぞれのオッズ比は性別(女性)が3.09(p<0.01)、通常歩行速度が0.97(p=0.02)、日本語版mGESが0.97(p<0.01)であった。【考察】日本語版mGESは高い再検査信頼性を示し、バランス、歩行速度、下肢機能などの運動機能との有意な関連を認めた。日本語版mGESは転倒恐怖感との関連性も強く、日常での歩行状態に対する自信の程度を把握する指標として妥当性を有する評価であることが確認された。このことから、従来の歩行動作から測定される歩行速度や歩幅、歩行率などの評価変数のみならず、日本語版mGESによる歩行の自己効力感の評価は地域在住高齢者における転倒恐怖感とも関連の強い重要な指標のひとつであると考えられた。今後は、この指標によって評価される歩行の自己効力感が運動介入などによって改善し得るか否かについての検証が必要である。【理学療法学研究としての意義】本研究では日本語版mGESの信頼性と妥当性が確認され、この指標が高齢者を対象とした理学療法における歩行評価のひとつとして活用可能であるという情報を提供する結果を示すことができた。今後は対象層を拡大した応用の可能性を含めて、理学療法研究の発展に意義のある内容を含むものと考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2012 (0), 48100182-48100182, 2013
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報
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- CRID
- 1390282680550035968
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- NII論文ID
- 130004584749
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可