理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-O-09
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一般口述発表
グループ単位の運動介入実施により軽度認知障害を有する高齢者のQOLは向上するのか?
─ランダム化比較試験による検討─
堤本 広大土井 剛彦島田 裕之牧迫 飛雄馬吉田 大輔上村 一貴阿南 祐也伊藤 忠李 相侖朴 眩泰鈴木 隆雄
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抄録

【はじめに、目的】生活の質 (quality of life: QOL) の維持・向上は高齢者に対する医療、保健、福祉において重要な因子である。軽度認知障害 (mild cognitive impairment: MCI) を有する高齢者は認知症に移行する危険性が高く、QOLが健常高齢者と比較して低下していると報告されている。一般的に高齢者のQOLを向上させる方法として運動療法、とりわけグループ単位で実施する運動療法は、高齢者や認知症を有する高齢者に対して効果的であることが明らかにされている。しかし、MCI高齢者に対する運動の実施がQOLの維持・向上に効果的かを検討した報告は少なく、それらの因果関係は未だ明らかになっていない。本研究の目的は、グループ単位で行う運動介入がMCI高齢者のQOLの維持・向上に有効かどうかをランダム化比較試験により検討することとした。【方法】愛知県大府市に在住する65歳以上の高齢者1,543名のデータベースから、Clinical Dementia Ratingが0.5、もしくは主観的記憶障害の訴えがあった528名のうち、Petersenの基準に合致したMCI高齢者100名(平均年齢75.4歳、男性51名)を対象とし、運動群と講座群に対象者を割り付けた。神経疾患や脳血管疾患の既往がある者は対象から除外した。運動群は、有酸素運動を中心としつつ、記憶や思考を賦活する課題を取り入れた運動介入を12か月間受けた。1回のプログラムは90分間とし、期間中に80回のプログラムに参加するよう実施計画を立てた。運動介入は、13人から16人のグループで実施し、さらにその中でも小さなグループを形成した。グループの利点を活かすために、理学療法士の指導後、グループ内でお互いに運動指導を実施した。さらに、日ごろ行っている健康行動の発表や討論などを行う行動変容プログラムもグループ単位で実施した。講座群に対しては、介入期間中に健康に関する講座を3回開催した。対象者のQOLは、日本語版SF8 Health Survey (SF-8) を使用して計測した。SF-8は、健康関連QOLの8領域 (身体機能、日常役割機能 (身体)、体の痛み、全体的健康感、活力、社会生活機能、日常役割機能 (精神)、心の健康) を測定することができる尺度である。分析は、介入前の各変数の群間比較に対応のないt検定、χ2検定を用いた。介入効果の検討は、群と介入期間を2要因とした反復測定2元配置分散分析を用いてSF-8の項目を比較した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し、同意を得た。本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。本報告に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などはない。【結果】89名が介入前後の検査を完遂した(運動群6 名、講座群5名が脱落)。運動群の介入期間中の参加率は87%と高い値を示した。ベースラインにおける運動群と講座群のQOLの各項目に有意差は認められなかった。全対象者を通して、SF-8の全体的健康感、日常役割機能 (精神)、心の健康において有意な向上が認められた。SF-8の社会生活機能においては、有意な交互作用が確認され、講座群と比較して運動群が高値を示した。(F = 3.201, p = 0.043)【考察】MCI高齢者に対するグループによる運動介入の実施は、社会生活機能におけるQOLの向上に有効であることが示された。認知症やMCI高齢者に対するランダム化比較試験において、QOLをメインアウトカムとした報告は全体の4.4%と少なく、MCI高齢者のQOLを維持・向上させる方法ついては十分明らかとはなっていない。本研究は、グループ単位による運動介入が、MCI高齢者のQOLを向上させることを明らかにし、運動介入のエビデンス構築の一助となったと考えられる。グループ単位の運動介入は高い出席率が見込まれ、この高い出席率が機能向上に寄与したものと考えられた。この点がグループ単位での運動介入の利点であろう。高齢者の社会交流を促進することにより、QOLが上昇することが報告されており、本研究においてグループ内での交流を促進する方法を取り入れたことが、社会生活機能といったQOLの1側面の向上につながったのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】我々は、運動介入によりMCI高齢者の認知機能・身体機能が向上することを以前報告した。本研究により、上述した効果だけでなくQOLの維持・向上に対しても効果を有していることを示せたことは、運動療法を実施する理学療法士にとって意義のあるものと考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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